もう数年前に巣立って行った子のお話しです。
テキストの曲ではなく、自分の好きな曲をたくさんやった子でした。
この子はきっと大人になっても、ピアノを自分の好きなことの一つとして大事にしていくのではないかな・・
そう思っています。
始めはテキストを順に でもだんだん・・・
わりとおしゃべりをよくする子。好き、嫌いが言葉にも態度にも出る子でした。
それでも始めのうちは、ごくごく普通にテキストを順番に進めていくレッスンを行っていました。
ピアノのレッスンはこういうもの、と本人も思っていたと思いますし、その当時は、私も、自分が子どものころ受けてきたレッスンを踏襲する形で日々進めていましたし。
でも、もともと自分の気持ちを表に出す子。だんだん、やりたくないことは「やりたくないオーラ」を出すようになってきます。
そして、やりたい曲を具体的に言うようになっていきました。
自分が今気に入っている曲色々です。
今どきのはやりの曲だったり、好きなアニメの主題歌だったり、合唱の好きな子だったので、学校でやる合唱曲だったり・・。
私は、まだまだ「好きな曲ばかりでは弾けるようにならない」という考えが強くありましたが、一方で、やりたいならやらせてあげたい、という思いもあり・・
そこで、好きな曲をやったらテキストにもどるという形で、本人のやりたい曲を取り入れるようになりました。
合唱の伴奏で驚くほど弾けるように!
私の考えの転機になったのは、合唱の伴奏の練習をしたときです。
これまでも話に出ていた本人のお気に入りの曲。実はひそかに練習をしていたらしく、伴奏やることになりそう、と聴かせてくれた時にはだいぶ弾けていました。
それでも私は、正直、この曲はこの子には難しい、と思いました。
でも、どんどん弾けるようになっていくんです!家でしっかり練習しているのがよくわかる。
なあ~んだ、実はこんなに弾けるんじゃない!今までのは何だったの??
とびっくり。
しかも、とっても楽しそうです。
そして、しっかり伴奏の役割を果たしました。
「好き」はスゴイ!
このことで、私は、「好き」という気持ちのすごさを思い知りました。
大好きな曲だと、これだけ弾けちゃうんだ!
本当に驚きました。
実は、実際どこまで弾けるのかということを考えると、難しい部分はあります。びっくりするほど弾けてしまうんですが、弾きこなすところまで至っているかといえば難しい。
自分の好きな曲となると、これまで学んできたこと以上の力量を求められることが多いので、一足飛びに難しいことをしなければならず、弾けない部分も出てくるんです。
それでも、弾いている本人はとても楽しそう。
「う~弾けない~」と言いつつ楽しそう。普段なかなか家で練習しなくても、ちゃんと練習してくる。
「今」弾きたい。だから、ここまでできちゃうんですね。
このことが一つのきっかけになって、レッスンのやり方を、今のスタイル「やりたいことをやる」という形に変えてきました。
大人になってもきっと・・
この子はその後、やりたい曲が具体的にどんどん出てくるので、テキストも続けつつ、好きな曲にも取り組んでいました。
相変わらずテキストの曲は「あんまりやりたくない・・」と。
私も、もうあまり勧めなくなりました。
ただ、うまく弾けないところがあったりすると、
「これを弾けるようになるには、やっぱりテクニックのテキストをやるといいんだよ。」
今の状況だと何が必要なのか、ということは、意識して伝えるようにしました。
大人になって再びピアノをやろうと思ったときに、「そういえば、昔そんなことを言われたな・・」と思い出し、テキストを手に取ってもらえれば、という思いを込めて。
今回紹介したこの子は、もし、やりたい曲ができない状態だったら、もっとずっと早い段階でピアノをやめていたと思います。
でも、やりたい曲をやってきた今、きっと大人になってもピアノに嫌な思い出を持つことなく、また弾き始めることがあるのではないかな、と感じています。
私が望むのはそういうこと。
先生に言われることを忠実に守って難しい曲を弾けるようになったけれど、たいして思い出に残っていない・・(←これ私)
弾きこなすことまでは難しかったけれど、好きな曲をいろいろ弾いて楽しかった、という思い出が残る・・
私は、後者の気持ちを持ってほしいと思っています。
これからも、レッスンに来る子どもたちの気持ちをよ~く見ながら、自ら「やりたい」と思えることに取り組んでいけることを大事に、レッスンをしていきたいと思っています。