「音楽室ゆう」では、障がいのあるお子さんを対象にした音楽療法を行っています。
「音楽室ゆう」は、通っているお子さんの人数がそもそも少ないですが、それでも半数近くの子に何らかの障がいがあります。
ほとんどがピアノレッスンを望まれますが、音楽療法で通っている子もいます。
過去も含めてお受けしてきた人数は少ないですが、そんな中で、自分が大切に考えていることをまとめてみます。
安心感を持ってもらうこと
これまで音楽療法でかかわった子どもたちは、みな発達障害のある子でした。
発達障害は、外界の変化に対応することが難しく、コミュニケーションに困難を抱えている場合が多くあります。
通い始めてしばらくは、部屋の隅でじ~っとCDから流れる音楽を聴き続け、こちらからのかかわりは一切受け付けない、という子もいました。
また、そもそも部屋に入ることができない、ということもありました。
本人にしてみれば、わからない場所に連れてこられ、知らない人に話しかけられ、不安でいっぱいになっているのをなんとか耐え、抵抗し、という心持ちだったと思います。
でも、この場に慣れ、私とかかわりを持ってもらわなければ先へは進めません。
私を拒否、ではなく、受け入れてもらわなければいけません。しかも、いやいやではなく、喜んで、という形でなくては良い方向へは進みません。
そのためには、音楽療法を行う場と私自身に、安心感を持ってもらわなければいけません。
ここは怖い場所じゃない、私は嫌なことはしない、ということをわかってもらわなければいけません。
丸ごと受け入れる
それには、本人を丸ごと受け入れることが必要になります。
本人に興味を持ってもらえそうな楽器を鳴らして見せたり、音で興味を持ってもらったり、好きだという曲を聴いてもらったり、さりげなくCDの操作を手伝ったり・・
拒否をされない程度のさりげないかかわりをして、他の楽器や他の音、そして、私自身の存在に気付いてもらうようにしていきます。
拒否をされたらしない。されない方法をまた試みます。
ダメ!も極力言わない。ダメと言わずに済む状況を事前に整えます。
本人の様子を丁寧に見ながら、ゆっくり少しずつ行っていきます。
すると、だんだんこちらを向いてくれるようになるんですよね。
ここは別に嫌な場所じゃないな。この人なら一緒にいてもいいな。
そんな風に気持ちが変わってくるのかな、と感じます。
こうなると、私からの「こんなことしよう!」「あんなことしよう!」も受け入れてもらいやすくなり、一緒に音楽を楽しむことができるようになっていきます。
ここまでの「ゆっくり、少しずつ」がとても大事だと考えています。
2,3か月かかることは当たり前。もっとかかることもありますし、行きつ戻りつということもあります。
でも、この期間を大事にすることが先々に大きく影響すると考えています。
始めが肝心、ということですね。
コミュニケーションが「苦手」なだけ
発達障害の症状として「コミュニケーションの困難さ」はよく挙げられます。
でもそれは、「苦手」だったり「難しい」ということであって、人と何かを一緒にすることが「嫌い」ということではないんですよね。
私の少ない経験ながら、それはとても感じます。
なので、ここは安心できる場所だ、と思ってもらえ、こちらを向いてくれるようになれば、一緒に音楽を楽しむことはできると思っています。
ここで、人と(つまり私と)一緒に音楽を楽しむ、という経験をたくさん重ねることで、自分自身に対する安心感、肯定感を持ってもらうこと。
それが、他の場所、他の人と何かをすることへの安心感に結び付いていくのではないか、と考えています。
音楽療法を行う「目的」は抱えている困難さによってそれぞれ違いますが、最終的に目指すことはこれだと私自身は考えています。